医学入門金沢大学大学院医学系研究科医薬保健学域医学類
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 姿勢の変化がもたらす中枢神経系の賦活作用

 運動を素早く開始したり、外界の変化を目で早期に捉えようとする場合などに、膝関節、股関節、および足関節を軽く屈曲し、頚および体幹を軽く前方へ屈曲した構え姿勢を保持することがあります。この構え姿勢は基本的動的姿勢と言われています。反射に焦点を当てた古くからの研究では、頚の姿勢を変えることで反射がよく現れるように変わることが示されています。これに加えて、姿勢の変化に伴う中枢神経系の賦活作用に焦点を当てて研究を進めてきました。特に、頚の姿勢に注目してきました。賦活状況の評価は、光の素早い移動を追う際の眼球運動の遅れ時間(眼球運動反応時間)、視覚情報を変えた場合に現れる脳波、脳の血流量、感覚誘発脳電位(視覚性、聴覚性、体性感覚性)、後耳介筋反射、および脊髄反射(H反射)の変化で行っています。

 それらの研究では、頚を前方へ屈曲した姿勢を保持することによって、眼球運動反応時間に明確な短縮が認められました。即ち、外界の変化をより早く判断できることが明らかにされました。さらに、視覚の変化が脳の視覚野に到達するまでの時間の短縮、視覚情報の処理に中心的な役割を果たす脳部位での血流の増加、神経に電気刺激を加えた場合に生じる脳波の潜時の短縮、後耳介筋反射と脊髄反射の亢進が示され、頚を前方へ屈曲することによる脳と脊髄の賦活作用が明らかになりました。これらの賦活作用は、早朝や夜間に大きく現れることも明らかになっています。

画像:頚部前屈姿勢による中枢神経系の賦活作用
頚部前屈姿勢による中枢神経系の賦活作用(局所脳血流量の測定)
上段:安静頚部姿勢
下段:頚部前屈姿勢

  頚を前方へ屈曲した場合には、頚背部の筋が収縮します。この筋は肩を挙上する場合にも収縮します。そこで左右の肩を同時に挙上させたところ、上記と同じような中枢神経系の賦活作用が認められました。さらに、右側ないし左側どちらか一方の肩の挙上でも同程度の賦活作用が得られました。この結果からは、一方の腕を操作する場合に、他方の肩の挙上によって中枢神経系を賦活させておくことで、腕の操作をより良く行うことができると考えられます。

  中枢神経系を賦活するメカニズムの解明も進んでいます。筋が収縮している場合には、筋内部のセンサーから収縮の情報が中枢へ送られます。このことからは、中枢神経系の賦活に筋からの情報がかかわっていることが推察されます。そこで、頚の前方への屈曲や肩の挙上を行わずに頚背部の筋に振動刺激(バイブレーション)を加えてみました。筋への振動刺激は、筋からの情報を増加させる方法の1つです。その結果、頚を前方へ屈曲した場合や肩を挙上した場合と同じような中枢神経系の賦活作用が確認されました。これは、特別な筋からの情報が中枢神経系の賦活を高めるために重要であることを示しています。こうした研究成果は、ドライバーの眠気予防法の開発に活用でき、その実用的利用の検討をしています。

  この他に、高齢者では姿勢の変化がもたらす中枢神経系の賦活作用が得られにくいことや賦活作用にトレーニング効果が認められることなどが分かってきています。これは、状況に合わせて中枢機能を調節する能力が加齢によって低下することや、トレーニングの有効性を示すものです。


環境社会医学講座 運動生体管理学(国際医療保健学)
 藤原 勝夫 教授


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